午前中に電話があり、午後には持ち込み
朝の出荷作業を終えた直後に持ち込み買取の電話がありました。
内容を伺うと杉山電機製作所のF-850を含めて、古いアマチュア無線機を4台浜松市から持参してくれるというありがたい話。
持ち込み買取なので無条件にOKの案件です。
この内容で出張買取ならば、迷うところです。
台数的には4台で浜松市ならお断りするレベルですが、珍しい杉山電機のF-850が含まれております。
F-850は1979年に発表された時に、非常に興味をひかれた無線機です。
1979年ですからヤエスのFT-101ZD,トリオのTS-180が同年に発売されております。
アイコムはこの年には新機種を投入しておらず、前年にIC-710翌年にIC-720を発表しております。
今ではHF帯の無線機に50MHz帯は当たり前になりましたが、当時は他に例がなくしかもF-850は144MHz帯をも含んでおりました。
非常に気になる無線機ですが、当時としては高めの価格設定で196,000円でした。
貧乏ハムにはおいそれと手の届く値段ではありません。
今では値引きは常識ですが、当時は値引き交渉以外は定価販売でした。
そのうえ名古屋のメーカーなのに、名古屋のハムショップにさえ現物は置いてないという話でした。
そんな訳で現物にお目にかかった事がなく、今回はじめて現物に触れる機会に恵まれました。
杉山電機製作所 HF/VHFトランシ-バ-F-850
杉山電機製作所は純粋に無線機のメーカーというわけではなく、工業分野のエキスパートでした。
その杉山電機製作所が無線機の技術競争が激しく、各社がしのぎを削っていた1970年代後半に、アマチュア無線業界に参入してきたのは驚きでした。
残念ながら厳しい販売競争には勝てなかったようで、F-850の一機種のみで撤退してしまいました。
杉山電機製作所からこれに続く後継機が発表がなかったことから、知る人ぞ知る希少機です。
持ち込まれたF-850はHF~2mバンド対応のオールモードトランシーバーで、出力は10W専用。
外観は大きめのいかにも無線機と言った据え置きタイプ。
バンドスィッチがプッシュスィッチの2段構えが特徴的です。
本体はかなり重めで、取り扱い説明書によると受信トップにFET全盛だったこの時期にあえて、CATV用のPT3.5Wの2SC1426を採用して、インターセプトポイント+28dBm、ダイナミックレンジ100dBを実現しております。
当時私が興味を抱いた一番の要因です。
異業種の杉山電機製作所が激戦のアマチュア無線機に参入
F-850を売り出した杉山電機製作所は現在の杉山電機システム株式会社です。
その杉山電機製作所が無線機の技術競争が激しく、各社がしのぎを削っていた1970年代後半に、アマチュア無線業界に参入してきたのは驚きでした。
当時はナショナルやNECの家電メーカーをはじめ、中小のメーカーが入り乱れておりました。
1970年代半ばには米国を抜いて、世界一のアマチュア無線人口となり、最盛期には約135万局あったアマチュア局ですが、1995年(平成7年)を境に減少に転じて、現状は右肩下がりの状況です。
総務省の発表によると、アマチュア無線局数は現在40万局あまりです。
杉山電機製作所のF-850とは
1979年に 杉山電機製作所から発売発売されたF-850は
F-850S 3.5-30/50/144MHz SSB/CW/AM/FM 10W 196,000
F-850D 3.5-30/50/144MHz SSB/CW/AM/FM 100W 220,000
の2種類です。
ちなみに同時期のトリオ(現ケンウッド)、ヤエス無線、アイコムのHF機は下記の通りで、いずれも144MHz帯はもちろん50MHz帯も含まれておりません。
TS-180X トリオ トランシ-バ- 3.5-29.7MHz SSB/CW/RTTY 10W 165,000
FT-107SM 八重洲無線 トランシ-バ- 3.5-30MHz SSB/CW/AM/RTTY 10W 195,000
IC-710S アイコム トランシ-バ- 3.5-28MHz SSB/CW/FM 10W 195,000
今ではV/UHFを含んだHF機は当たり前になりましたが、当時は50/144MHz帯を搭載したのはF-850だけでした。
取り扱い説明書によると受信トップにFET全盛だったこの時期にあえて、CATV用のPT3.5Wの2SC1426を採用して、インターセプトポイント+28dBm、ダイナミックレンジ100dBを実現しております。
外観は大きめのいかにも無線機と言った据え置きタイプで、バンドスィッチとモードスィッチがプッシュスィッチの2段構えが特徴的です。
◎1.8~144MHz帯の全アマチュアバンドと、JJY(15MHz受信のみ)がフルカバーできます。
◎SSB(USB,LSB),CW,AM,FMのオールモードで運用できます。
◎操作が容易なノーチューニング設計で、セレクトボタンを押すだけで切り替わります。
◎ハイレベルのDBMを使用し、1.8~14MHzにおいて100dB,21~144MHzにおいては95dBという超ワイドなダイナミックレンジを得ております。
◎大型のLEDを使用し、各バンド各モードにおける正確な運用周波数を100Hzオーダーで表示します。
◎受信機の選択度を0.4,1.2,1.8,2.4KHzの4段階に選択切り替えができます。
ただしFMモードの時は、このスィッチに関係なくセット内部で、16KHzに固定されます。
◎本機のVOX回路は復帰時間をSLOW,FASTと2段階に切り替えができます。
SLOWを電話用、FASTをCW用に使い分けます。
またCW運用時、復帰時間を短くしてハイスピードブレークイン運用ができ、CWサイドトーンと併せてハイレベルのCWオペレーションができます。
◎コンプレッションレベル可変のスピーチプロセッサーを内蔵しています。
マイクゲインをあげていくと、ある位置から動作を始めます。
◎スィッチ切り替え式のセンターメーターを装備していますので、相手局に正確に同調がとれます。
なおメーターはFM以外のモードでは、メータースィッチの設定に関係なくSメーターとして動作します。
◎FM,CWモードでは、約1Wから10Wまでパネル面のツマミで連続可変できます。
◎JJYと25KHzマーカーで正確に周波数校正ができます。
◎AC100VまたはDC13.5Vのどちらでも運用できる2電源方式です。
F-850の定格
●周波数範囲
1.8MHz帯 : 1.5~2.0MHz
3.5MHz帯 : 3.5~4.0MHz
7MHz帯 : 7.0~7.5MHz
14MHz帯 : 14.0~15MHz(14.5~15.0MHz受信のみ)
21MHz帯 : 21.0~21.5MHz
28MHz帯 : 28.0~30MHz
50MHz帯 : 50.0~54.0MHz
144MHz帯 : 144.0~146MHz
●電波型式 A3J(USB/LSB) A1(CW) A3(AM) F3(FM)
●送信出力 A3J,A1,F3 : 10W A3 : 5W (A1,F3は約1W~10W可変)
●空中線インピーダンス : 50Ω
●搬送波抑圧比 : 40dB以上
●側帯波抑圧比 : 40dB以上
●不要輻射強度 高調波ー60dB以下(1.8~28MHz帯) ー70dB以下(50~144MHz帯)
その他ー50dB以下(1.8~28MHz帯) ー60dB以下(50~144MH帯)
●第3次混変調歪 : ー30dB以下
●変調方式 A3J : 平衡変調 A3 : 低電力変調 F3 : リアクタンス変調
●マイクインピーダンス : 600Ω
●送信周波数特性 : 300~2700Hz(ー3dB)
●周波数安定度 スィッチオン1分後~60分後まで±1KHz以下、その後30分当たり100Hz以下
●受信方式 シングルスーパーヘテロダイン
●IF周波数 : 12.375MHz
●受信感度 0.50μV S/N 10dB (1.8~14MHz帯) 0.18μV S/N 10dB (21~144MHz帯)
●ダイナミックレンジ 100dB, IP.28dBm(1.8MHz~14MHz)
95dB,IP.13dBm(21MHz~144MHz)
●イメージ比 : 60dB以上
●IF妨害比 : 70dB以上
●選択度 : 0.4,1.2,1.8,2.4KHz(ー6dB) ただしFMモードは16KHz固定
●スケルチ感度 : 0.33μV以下(FMモードのみ)
●低周波出力 : 2.5W以上(10%歪時)
●低周波出力インピーダンス : 4~8Ω
●電源 : AC 100V 50/60Hz DC 13.5V マイナス接地
●消費電力 DC13.5V 受信時 1.5A 送信時 3.5A
AC100V 受信時 50VA 送信時 118VA
●寸法 幅380X高さ180X奥行397mm(突起物を含む最大寸法)
●重量 約14Kg
あまりにも先取りし過ぎた
異色のトランシーバーでしたが、実績がなかった事も影響して、残念ながら厳しい販売競争には勝てなかったようで、F-850の一機種のみで撤退してしまいました。
杉山電機製作所からこれに続く後継機が発表がなかったことから、知る人ぞ知る希少機です。
当時のカタログには、周辺機器として、リニアアンプや外部VFOも近日発売と告知しておりましたが、残念ながら売れ行きが芳しくなく実現しませんでした。
販売戦略にも問題があったように思います。
名古屋のメーカーでありながら、探し方が悪かったのかも知れませんが、豊橋や豊川はおろか名古屋のハムショップにも店頭で見かける事はありませんでした。
同時にお持ちいただいた無線機
同時にお持ちいただいたなかに奇しくも同じ850を冠したヤエスのFT-850がV/UHF機に混じっておりました。
偶然とはいえ非常に珍しいことです。