多発する自然災害にアマチュア無線局の4630KHz非常通信を考察する

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非常通信
トンガの大規模噴火の影響で、津波警報や津波注意報が出されTV等ではいろいろ騒がれており、SNS等ではアマチュア無線での非常通信についてもさまざまな意見が飛び交っております。
アマチュア無線のバンドプランで定められた周波数を空けておくことは重要ですが、 4630KHz の運用についての私見を述べさせていただきます。

かって自衛隊で通信関係に従事していた私が雑記ブログ、に掲載していたものを雑記ブログよりも、アマチュア無線に特記した当ブログの方が適当と判断し編集、移転したものです。

       非常通信周波数

バンド電波の形式周波数
4630KHzCW 4630KHz (非常通信専用)※1
3.5MHzCW、AM、SSB系 3,525±5kHz
7MHzCW、AM、SSB系 7,030±5kHz
14MHzCW、AM、SSB系 14,100±10kHz
21MHzCW、AM、SSB系 21,200±10kHz
28MHzCW、AM、SSB系 28,200±10kHz
50MHzCW、AM、SSB系
FM系
FM系
 50.10MHz
 51.00MHz(呼出周波数共用)※2
 51.50MHz
144MHzCW、AM、SSB系
FM系
FM系
 144.10MHz
 145.00MHz(呼出周波数共用)※2
 145.50MHz
430MHzCW、AM、SSB系
FM系
FM系
 430.10MHz
 433.00MHz(呼出周波数共用)※2
 433.50MHz
1200MHzCW、AM、SSB系
FM系
 1294.00MHz
 1295.00MHz(呼出周波数共用)

FM系ではモールス通信(F2)も可
※1 4630KHzは、非常通信連絡設定専用で、警察庁・自衛隊・海上保安庁等の行政機関と直接交信が可能
※2 
FM系で呼出周波数と共用の非常通信周波数は、呼出しと応答の連絡設定に限られており非常通信を継続する場合はFM区分内の他の周波数に変更しなければならない。

多発する自然災害

今年は大阪府北部地震、平成30年7月豪雨、台風第20号、台風第21号、台風第24号、北海道胆振東部地震などなど自然災害が多く発生しました。
当地においても台風第24号では、平成最大の停電があり長時間にわたって不便な生活を余儀なくされました。

限りある貴重な資源である電波を、極めて安価な使用料で使わさせてもらっているアマチュア無線家は、このような時に何ができるのか考えさせられました。
まず最初に頭に浮かんで来るのは、非常通信です。

遭難通信と非常通信の違い

遭難通信とは船舶の海難や航空機の重大な危機が発生した時の通信です。
登山での非常事態は一般的には遭難と表現されますが、電波法的には非常通信です。
電信の遭難信号「SOS」は映画等で一般の人にも知名度がありますが、非常通信の「OSO」は無線家でないとあまり知りません。

遭難通信と非常通信では電波法の取り扱いも異なります。
概ね非常通信は通信事項に目的外使用(非常通信)が認められるということ以外は免許状の範囲内での通信が基本です。
一方の遭難通信は通信事項はもちろん、周波数・出力・型式などが免許状の範囲を超えても許される最優先の通信です。

遭難通信の定義
船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥つた場合に遭難信号を前置する方法その他総務省令で定める方法により行う無線通信をいう。
(登山などでの遭難は含まれませんので注意してください)

遭難通信を行う場合には
「通信の目的」「通信の相手方」「通信事項」について無線局の免許に記載された範囲を超えて通信できます。(電波法 第五十二条)
「無線設備の設置場所」「識別信号」「電波の型式」「電波の周波数」について無線局の免許に記載された範囲を超えて通信できます。(電波法 第五十三条)
「空中線電力」(出力)について無線局の免許に記載された範囲を超えて通信できます。(電波法 第五十四条)
また、「運用許容時間」を制限されている無線局については、その許容時間外でも運用できます。(電波法 第五十五条)

非常通信の定義
非常通信(地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる通信をいう。

非常通信は予め免許された「無線設備の設置場所」「識別信号」「電波の型式」「電波の周波数」「空中線電力」の範囲内でなければなりません。

「通信の目的」「通信の相手方」「通信事項」についてのみ無線局の免許に記載された範囲を超えて通信できます。

アマチュア無線局における4630KHz

減少の一途にあるアマチュア無線局の総数が、420,281局。
そのうち4630KHzを免許されている局は43,495局です(2018/06/17検索)
ほぼ一割に当たります。

以前からアマチュア無線局の4630KHzに疑問を抱いておりましたので、たまたま今回の大阪の地震の前日に記事にしようと思い、総務省の無線局等情報検索で調べておりました。
アマチュア無線局以外は検索できませんでしたが、免許されている局は少ないように思います。
自衛隊、警察庁、海上保安庁、気象庁、海岸局のうちどれくらいに免許されているのか、興味のあるところです。

下記のように非常通信連絡設定周波数が規定された1949年はまだアマチュア無線局は許可されておりません。
サンフランシスコ平和条約が発効し、国際法上、連合国との戦争状態が終結し、主権を回復した1952年(昭和27年)に再開されました。

尚、その当時はアマチュア局の送(受)信機は殆ど自作であったため、この指定への対応はそう困難でなかったと考えられます。
その後殆どのアマチュア局がメーカー製の機器を使うようになり、ハムバンドから離れた周波数であるためか、国内無線機メーカーではこの指定に対応するものが無かった時がありました。

その後、この指定の意義に気付いたメーカー(例えばアイコム)が送信対応可能とし、現在では国内セットメーカー各社共運用可能に至っています。
このため「もらえるモノはもらっておこう」でついでに申請している方が大半だと思っております。

非常通信周波数の経緯

1949年(昭和24年) 私設無線電信電話規則が改正され、当時、施行されていた無線電信法で無線電信4,200kc(当時はKc表記で現在のKHzに相当)は非常通信に使用するものとされました。
1950年(昭和25年)6月に電波法が施行、無線電信法は廃止されました。
1953年(昭和28年) 「無線電信による通信を行う非常局は、A1電波4,200kcを送り、及び受けることができるものでなければならない。」 とされました。

1954年(昭和29年) 非常通信周波数が4,200kcから4,630kcに変更されました。
4630KHzはアマチュア無線が社会に役立つ趣味として認められ、国が定めた代表的な周波数です。
電波法により 非常通信連絡設定周波数として自衛隊、警察庁、海上保安庁、気象庁、海岸局などと アマチュア無線局が、同じ周波数を使い組織的に非常通信を行う目的で免許されています。
そのため、私達ハムもこの公共周波数で業務無線局と一緒に運用している訳です。

アマチュア無線局に4630KHzは必要か

上述のように無線機メーカーが、対応してくれるようになり大量のアマチュア無線局が申請し、許可されております。
しかし現実に非常時に対応できる人がどれだけいるのでしょうか?
4630KHz用のアンテナを用意している人がどれだけいるのでしょうか?
もちろん昨今の無線機の多くにはATUが搭載されておりますので、強引に 4630KHz に出る事もかのうでしょう。

百歩譲って4630KHzで送受信ができたとして、アマチュア無線局以外の自衛隊、警察庁、海上保安庁、気象庁、海岸局と対応が可能でしょうか?
当然これらの局との電文は和文になるでしょう。
所定の様式に従わなければ、混乱を招くだけではないでしょうか ?

となると非常通信の相手方はアマチュア無線局に限られます。
アマチュア無線局が相手となると、敢えて4630KHzを使う必要はありません。
非常時にたくさんのアマチュア無線局が聞いているであろうアマチュア無線用の周波数で十分です。
アマチュア無線用の周波数でアマチュア無線局を相手に運用してこそ、ハンディ機、モービル機等の停電時でも運用可能なアマチュア無線局の特徴が発揮できると思います。

アマチュア無線局の非常通信マニュアルがJARLのサイトにありますので、貼り付けておきます。
以上のような理由により、当局は4630KHzは申請しておりません。



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